「あいつ、確信犯だよね」
「確信犯だからしょうがないか」
日常会話でこんなふうに使ったことはありませんか?
実はこの使い方、約7割の人が誤用しているのです。
文化庁の「国語に関する世論調査(平成27年)」では、確信犯を「悪いことだとわかっていながら行う行為・人のこと」という誤った意味で使っている人が69.4%にのぼると報告されています。
「確信犯」の本当の意味・由来・誤用が広まった理由・故意犯との違い・正しい言い換えまで、まとめて解説します。
「確信犯」の本当の意味を簡単に説明すると?
「確信犯」の本来の意味を、まず一言でいえばこうなります。
「宗教的・政治的・道徳的な信念から、自分の行いは正しいと確信して行われる犯罪(または、その犯人)」
つまり、「悪いことをわかってやる」のではなく、「これは正しいことだと信じてやる」のが確信犯です。
歴史的な例でいえば、独裁政権に抵抗するためにあえて法律を犯した活動家や、信仰のために政府の命令に反した宗教者などが「確信犯」にあたります。
本人の中に「自分は正しいことをしている」という強い信念があるのが、確信犯の本質です。
語源・由来:ドイツの刑法学者が生んだ概念
「確信犯」はもともと日本語ではなく、ドイツ語の「Überzeugungsverbrechen(ユーバーツォイグングスフェアブレーヒェン)」を訳した法律用語です。
この概念を提唱したのは、ドイツの刑法学者グスタフ・ラートブルフ。
1923年の論文「確信犯罪者」の中で、信念に基づく犯罪を一般的な犯罪とは区別して論じました。
日本ではこれが「確信犯」として法学の世界に入り込み、やがて一般にも広まっていきました。
ただし、広まる過程で意味がずれてしまったのが、誤用が生まれた原因のひとつです。
なぜ誤用が広まったのか
「確信犯」の誤用がここまで広がった理由はいくつか考えられます。
① 「確信」という言葉のイメージ
「確信」という言葉には、「はっきりわかっている・間違いないと思っている」というニュアンスがあります。
そのため、「確信犯=わかってやっている犯罪」と直感的に誤解されやすいのです。
② 本来の意味が難しすぎる
「宗教的・思想的信念に基づく犯罪」という本来の定義は、日常生活でほぼ使う場面がありません。
一方、「わかってわざとやること」という意味は日常的によく使うため、そちらの意味で定着してしまいました。
③ メディアでの誤用の蓄積
テレビ・雑誌・ネットなどで誤った意味で使われる機会が積み重なり、それを正しいと信じた人がまた誤用する、という連鎖が続いています。
平成14年の文化庁調査では誤用率57.6%でしたが、平成27年には69.4%に増加しており、誤用はどんどん広がっています。
「確信犯」と「故意犯」の違い
「確信犯」の誤用としてよく使われる意味に近いのが、「故意犯(こいはん)」という法律用語です。
2つの違いを整理します。
| 確信犯 | 故意犯 | |
|---|---|---|
| 意味 | 正しいと信じて行う犯罪 | 悪いとわかってやる犯罪 |
| 本人の認識 | 「自分は正しいことをしている」 | 「悪いことをしている」 |
| 動機 | 信念・理念・信仰 | 利益・怒り・快楽など様々 |
| 例 | 思想的信念から法律を犯した活動家 | 故意の詐欺・窃盗など |
日常会話で「わかってわざとやったな!」と言いたいなら、「確信犯」ではなく「故意犯」が正しい言葉です。
ただし「故意犯」も法律用語のため、会話では後述する言い換え表現を使うのが自然です。
正しい使い方と例文
■ 本来の「確信犯」を正しく使った例文
- 「彼は国家権力に抵抗するための確信犯として、あえて逮捕を受け入れた」
- 「その活動家は、正義を信じるがゆえの確信犯だった」
- 「歴史的に見れば、思想弾圧の時代に生きた人々の多くが確信犯として裁かれた」
■ よくある誤用の例文(こう使うのはNG)
- ❌「あいつ、また遅刻してる。確信犯だよね」
- ❌「わざと挑発しているのは確信犯だ」
- ❌「彼女の失言は確信犯だと思う」
これらはすべて「悪いとわかってやっている」意味で使っており、本来の確信犯とは異なります。
「確信犯的」という使い方も要注意
「確信犯的な行動」「確信犯的にやっている」という使い方もよく見かけますが、これも誤用の派生形です。
「確信犯的」という言葉は辞書にも正式には載っておらず、「わかってわざとやっている様子」という誤用の意味で広まった表現です。
改まった文章やビジネスシーンでの使用は避けるのが無難です。
誤用している場合の正しい言い換え
「わかっててわざとやっている」という意味を伝えたい場合は、以下の言葉に言い換えましょう。
| 言い換え | ニュアンス |
|---|---|
| 故意犯 | 法律的に「故意に行った犯罪」。フォーマルな文脈向け |
| わかっててやってること | 口語での言い換えとして最も素直 |
| 意図的な行為 | ビジネス・書き言葉で使いやすい |
| 計算ずく | 戦略的に狙ってやっているニュアンス |
| 確信的行為 | 「確信してやっている」という意味に限定 |
「確信犯」の反対語は?
確信犯の反対語は、「過失犯(かしつはん)」です。
過失犯とは、不注意や怠慢によって意図せず起こしてしまった犯罪のこと。
「わざとではなかった」という点で、「信念を持って意図的に行う」確信犯と対をなします。
また、「愉快犯(ゆかいはん)」が反対語として挙げられることもあります。
愉快犯は「快楽・スリルを求めて行う犯罪」であり、崇高な信念とは真逆の動機で動く犯罪者です。
「確信犯」の英語表現
確信犯を英語で言うと、「crime of conscience」が最も近い表現です。
「conscience(コンシャンス)」は「良心・道義心」を意味し、「crime of conscience」で「信念・良心に基づく犯罪」というニュアンスになります。
- He was a prisoner of conscience, jailed for his beliefs.(彼は信念ゆえに投獄された、確信犯的な囚人だった)
なお、日本語で誤用されている「悪いとわかってわざとやること」を英語にする場合は、
「intentional act(意図的な行為)」や「deliberate wrongdoing(意図的な不正行為)」などが適切です。
まとめ
「確信犯」について改めて整理します。
- 本来の意味:宗教・政治・道徳的信念から「自分は正しい」と確信して行う犯罪・犯人
- ドイツ語「Überzeugungsverbrechen」に由来。刑法学者ラートブルフが1923年に提唱
- 文化庁調査(平成27年)では69.4%が誤用。「悪いとわかってやること」の意味で広まっている
- 「故意犯」との違い:故意犯は「悪いとわかってやる」/確信犯は「正しいと信じてやる」
- 反対語は「過失犯」(意図せず起こした犯罪)
- 英語では「crime of conscience」
- 誤用している場合の言い換え→「故意犯」「意図的な行為」「計算ずく」など
「確信犯」を正しく使える人は今やごくわずか。
この機会に正しい意味をしっかり押さえておきましょう。
